Retoucher Mizue Asada

#11
リタッチャー
浅田瑞恵
ニューヨークには一度母国で社会人を経験してから、さらに多くを学ぶ為に渡ってくる人が数多い。高校を卒業し大学に入学するために来る人や、語学留学で渡米をしてくる留学生と違って彼らの目的は「新しいこと」を探すことであったりする。ここは刺激の宝庫だ。感性のアンテナをのばして吸収する意欲さえあるなら、一歩外に出れば常に新しいことが待っている。人もモノもハプニングも。それが多くの人がここに留まる理由かもしれない。 広告/雑誌媒体をメインにフォトリタッチングを手がける浅田瑞恵さんはニューヨークでプロのリタッチャーとしてのキャリアを初めて5年。彼女もこの「ワクワク」のために留まった一人だ。好奇心と行動力のリタッチャー、イギリス/ドイツを経てニューヨークに腰を落ち着けた瑞恵さんにお話を伺った。
m: monocomplex
M: Mizue

m: 「リタッチャー」ってどんなお仕事ですか?

M: 写真を広告や雑誌などに載せられるように、キレイに仕上げる仕事です。たとえば人の肌の色味を調節したり、輪郭の形を整えたり、イメージをどんどんキレイにしていく。イメージを加工する、ということですね。
プロダクトなんかはゴミ取りなどイメージの調整をした後その周りに輝きをつけたりします。悪い所を消して良い所を強調する。綺麗なモノをより綺麗に見せること。撮影ではどうしてもプロダクト全体にピントを合わせて撮影することはできなくて、たとえば3カ所ピントをあわせる位置をずらして撮影して、それを合わせて全体にフォーカスがあったイメージを作るんです。イメージサイズやプロダクトの奥行き次第でフォーカスの数は変わっていきますね。

最近では単に広告や雑誌の仕事ではないことも試みています。あるフォトグラファーさんとは、その方が撮った体を真っ白に塗ったモデルさんの写真を私が加工してアート作品を創っています。そういうコラボレーションが出来る方はいつも探していて、自分の技術も一緒になって面白い物が創れる方法を考えています。
Untitled, 2010
m: この職業につくきっかけはなんだったんでしょう?

M: 短大時代は文学部だったんですが、小さい頃から絵を描くのが好きで、ずっとクリエイティブなことがしてみたかったんです。短大を出て旅行会社で働いていたりしていたんですが、お金を貯めて海外でそういう勉強をしたいと思っていました。
最初は、旅行で行って雰囲気がとても好きになったドイツに行こうと思っていました。でもドイツ語は分からないし(笑)、なんとか英語が通じるヨーロッパ圏でと思ってイギリスで留学生を受け入れているアートスクールを探しました。もともと美術系の学校にいた訳ではなかったし、1年をかけてポートフォリオを作りました。グラフィックデザイン志望だったんですが、「君はグラフィックじゃなくてメディアがいいんじゃない?」と勧められてじゃぁそれで、と(笑)。そうやってイギリスのアートスクールから始まったんです。

結構有名な学校だったんですけど、放任主義で生徒もあんまり来ないし、スタジオがいつも貸し切りで使い放題でした。そこではアニメーションのクラスをとっていました。はじめから終わりまで一人で完結出来るアニメーションはすごく楽しかったですね。でもイギリスのアートスクールはものすごく、特に外国人には授業料が高いんですよ。2年間の予定だったんですが、1年目にまたドイツ旅行をした時に現地のアートスクールを訪れてみたんですね。そこで生徒を捕まえて、「誰か先生の連絡先教えてくれない?」っていろんな先生の連絡先を教えてもらって。その中の一人の英語の話せる先生が会ってポートフォリオを見てくれることになったんです。そこで自分がその学校に入れるか聞いてみたら「じゃぁ私の授業には入れてあげるから」って話を付けてくれて、私のポートフォリオを創るアドバイスも一対一でしてくれて。それでイギリスの学校を辞めてドイツに移りました。

実際にドイツでその学校に通い始めたら、そこはポートフォリオを持って行って、先生がそれを見ていいと思ったらどんどんそのクラスをとれることが分かったんです。その話をつけてくれた先生のクラスだけじゃなて他の先生の授業もとることができて、しかも放任主義ではなくちゃんと教えてくれる。ドイツ語はまだ分からなかったけど、ソフトウェアの使い方などちゃんと教えてもらうことができました。やっぱりビジュアルなことだから言語がちゃんと分からなくても調べれば分かるようになるんですよね。

m: ヨーロッパのアートスクールを転々とした浅田さん。ではニューヨークにくるきっかけは?

M: いったんお金が尽きて日本に帰ったんですけど、本などの影響もあってニューヨークにも興味を持ち始めました。とりあえず三ヶ月くらい旅行してみようと思ったんです。それで滞在中の仕事先と学校を同時に探していたら、インターンで3Dが学べて、それでよければ採用、みたいな会社を見つけて三ヶ月のコースでやりはじめました。3Dはやったことがなかったんですが、面白そうだし上手くいけばいいなと思って。そこでなんとなく、ヨーロッパよりもチャンスがつかみやすいな、って感じたんです。NYではいろんな部分でチャンスが多いですよね。
ヨーロッパにいる時はお金が必要になったらいったん日本に帰って仕事してお金を貯めなければいけなかったけど、ここにいるとなんとかまかなうことも出来たんですよ。チャンスを探しながら、滞在を続けることができる。そんな中あるときフォトグラファーの人に出会ったんです。写真も学校で勉強したことがあったのでアシスタントになったんですけど、その方から「リタッチもやってみたら」ってアドバイスを受けてはじめてみたら凄く絵を描く感じに似てたんです。自然にどんどん手が動いて、これだなって。


m: 今の仕事の魅力は?

M: 写真を直した時の、その前後の差を比べて満足することかな。
最初にイメージをもらった時に、それをどうするかっていう完成像を想像してそこに近づけて行くんです。音楽を聴きながら集中して没頭出来るんです。
フォトリタッチの会社と一言に言ってもいろんなジャンルがあって、ファッション系の写真のリタッチと美術作品のリタッチとは求められるものが違う。だから各会社にもそれぞれ得手不得手があるように思いますね。たとえばオーガニックさを残したリタッチと、ひたすら物質的な美しさを求めるリタッチと、それぞれ仕事の内容は違ってくるんですけど、それはクライアントと何度も確認しあいながら改善していくんです。
最近は紙に印刷するものって減ってきてて、iPadのようなタブレットに合わせたデジタルイメージが増えているから、そうするとリタッチャーの仕事の絶対数も減って来ているみたいです。10年後もリタッチの仕事があるのかさえ分からない。動画用のリタッチになるとまた違うツールが必要になってくるので、そういうのも興味があって学んでみたいと思っています。今リタッチをやっている人も、業界はゆくゆくは動画のリタッチになっていくと予測しているとききます。

m: それではご自身の今後の展望を。

M: ヨーロッパもやっぱり好きなので、ニューヨークと両方に拠点をもちたいですね。一人で全部背負うのは大変なんで、いろんなジャンルの違う人、経理とか営業とかフォトグラファーとか、何人かの仲間と一緒に仕事が出来たらいいなと思っています。

1978年、北海道出身。藤女子短期大学国文学科卒業後、日本の旅行会社やエアラインでカスタマーサービス担当。
2002年、イギリスの London College of Printing Media Foundation Courseへ進学。
Diploma を取得。コース終了後、ドイツのUniversität der Künste Berlinで
ゲストステューデントとして一年間、写真、タイポグラフィーやアニメーション、グラフィックデザインなどのクラスを受講。
1年間日本へ帰国後、今度は渡米。NYで3ヶ月の観光の予定が、滞在中にヨーロッパとは違うおもしろい点を見つけ、長期滞在を決定。
知り合いの日本人からの助けで、フォトリタッチャーという仕事があることを知る。
始めるとどんどん面白くなってゆき、広告、雑誌などを手がけるプロのリタッチャーとして、5年目を迎える。

リタッチャー
浅田瑞恵
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